自分の裏表

ジーキル博士とハイド氏 (新潮文庫)

ジーキル博士とハイド氏 (新潮文庫)


『もう一人の自分を作る機械』


 こんなものがあったらどうするでしょうか?

 いきなりこんなことを聞かれたら、頭上にクエスチョンマークを並べ立てて「こいつ、何言ってんの?」と思うことでしょう。私も思います(おい

 最近はクローンということもあるので、あながち全てが虚構という感じではないのかもしれませんが、現実的ではないですね。ですがもしも、『もう一人の自分を作る機械』が目の前にあるとすれば……。
 私は断固としてその機械を使用することは無いでしょうね。『もう一人の私(今現在)』がいると思うと、それだけで私はかなり『見たくない』と考えてしまいますから。

 唐突ですが、今の私を作っているものはなんでしょうか?
 それは物であれ人であれ光景であれ、とんでもない数の『出会い』だと思います。その『出会い』全てが私の糧であり枷であり、今も起こり続けているこの一瞬一瞬の『出会い』が『私』なのです。『出会い』というのは実に奇怪な機会で、今にして思えば何気ない瞬間も奇跡的な組み合わせの『出会い』の連続なのだな〜と感じることがあります。
 起こってしまえば奇跡も偶然も必然だったと言えますが、ではここでもし『私』がもう一人いて私と別の行動をとるとしたら、それはその奇跡的な瞬間が『私』に起こるのであって、『もう一人の私』にはまた別の奇跡的瞬間が起こることになります。そうなってしまえば『私』と『もう一人の私』は過去が少し違いますよね。たとえほんの数秒であっても、たった一秒でも、過ぎてしまえば過去なのですから。
 『もう一人の私』が歩む新しい道に対して、私は何を思うでしょうか。嫉妬するかもしれない、羨ましがるかもしれない、劣等感を苛まれるかもしれない、優越感を打ち震えるかもしれない……。元が同じだけに、全てが近いだけに、負の感情も正の感情もより大きく抱くと思うんです。私はそんな膨大な感情を持つ私を見たくないです。私は自分の浅ましい一面を見るたびに辟易するような人間です。『もう一人の私』がいたら、『私』のそんな嫌な一面を、それこそ嫌というほど突きつけられるのでしょうね。
 ……考えるだけで疲れそうです。本当に見たくないのは『もう一人の私』ではなく『本当の私』なんですよね。

 少し話は変わりますが、人間誰しももう一人の、いや複数の自分を抱えているものですよね。独りでいる時、友人といる時、家族といる時、仕事をしている時などなど、それぞれ表情は違うものです。「全部含めて一人の人間だ」と言う人もいるのかもしれません。しかし、それは『素の自分』ばかりではないですよね?
 周囲に合わせて、環境に沿って、違う『自分』を作ったとしても、それは必ずしも本人が望む『自分』ではないかもしれません。周囲のため、環境のために『作られる自分』と呼べるかもしれませんね。
 『作られる自分』を生み出すのは『出会い』です。そして刹那的な『出会い』はいつでも自分の選択だけでは成り立ちません。他人がいないとできないのです。他の人がいるから『出会い』が生まれ、出会いがあるから『(もう一人の)自分』が生まれる。その繰り返しこそが、今の自分を作っているのではないでしょうか。

 そんなことを考えると、私たち人間一人一人が『もう一人の自分を作る機械』であり、『もう一人の自分を作らせる機会』なのかもしれませんね。


無為な独り言、失礼しました。



ここで本の紹介をしたいと思います。

ジーキル博士とハイド氏』は有名な作品なのでご存知の方も多いとは思いますが、簡単に言うと自分の裏側にあるもう一人の自分が暴走してしまうジーキル博士の物語です。
 往々にしてお酒に酔ったりすると溜まっていた鬱憤が爆発した、というようなことを聞きますが、そんな時に見えるもう一人の自分、いや本当の自分の姿というのは案外自分が知らないだけでとんでもない様相なのかもしれませんね。
 ちなみに、畜大図書館には『ジーキル博士とハイド氏』が2種類あるのですが、今回は『訳・田中西二郎』バージョンの解説の中の一文が非常に好きなので載せてみます。


愉しからざることが人生の本質により近い


久々やってきてえらい長々だらだら書いてしまいましたが、私は以前読書プロジェクトメンバーだった元畜大生です。なので勝手に書いている訳じゃないですよ(汗)。ちゃんと(?)許可を得ていますから。と、まあ久しぶりに書かせてもらって楽しかったです。それでは失礼しました。
(とある元・畜大生)

とある元・畜大生さん、お久しぶりです! もちろんいつでも書き込み歓迎です、またどうぞ♪
ジーキル博士とハイド氏』は畜大では岩波文庫版と新潮文庫版を所蔵しています。今回ご紹介いただいたのは新潮文庫バージョンですね。岩波文庫バージョンのクラッシクな訳文も雰囲気が有って良いので、興味がある方は是非読み比べてみてください。どちらも図書館文庫コーナーにあります。(Oひら)