知的生産の技術 / 梅棹忠夫著 1969年

知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産の技術 (岩波新書)

梅棹忠夫がこの7月3日、90歳で亡くなりました。

著者は国立民族学博物館(民博)を創設し、民族学、日本の文化人類学の先駆者として、比較文明論など幅広い分野で業績をあげました。京都大学在学中に今西錦司が率いる内蒙古学術調査隊に加わり、動物学から民俗学、人類学に専攻を転じ、47歳で『文明の生態史観』、2年後の1969年にこの『知的生産の技術』を著しました。
この本はその後ベストセラーとなり、幅広い層に読まれています。本学図書館にはこの本が2冊あり,1冊は貸出の日付印が平成3年を最後(自動貸出機で借りた場合は不明)とし、もう1冊は今年6年ぶりに借りられた形跡があります。

さて,時代は変わり,膨大な情報と加速化する時間軸や使う道具も40年前には想像しなかった現代にこそ,必要なヒントがこの本にはたくさん書かれています。特に「整理と事務」の章では,整理や事務の効率は単なる能率の問題ではなく精神衛生面の問題であると語っています。精神面の問題とは「人間から,いかにしていらつき(・・・・)をへらすか,という問題」「整理や事務のシステムをととのえるのは「時間」がほしいからではなく「生活の秩序としづけさ」がほしいからである。」そうしてこそ知的効率が高まると言及しています。そのほか「読書」「文章」などの各章でも創造的な知的生産を生み出すプロセスと技術についてわかりやすく語られています。リテラシー教科書のさきがけの本であり,真に時代を先取りした本です。

その後この本を基に1988年募集論文を梅棹忠夫が編集した『私の知的生産の技術』が発刊されました。さらに著者を顧問として「知的生産の技術研究会」が発足し、『新・わたしの知的生産の技術』をはじめ、最近ではビジネスパーソンへの知的生産の啓蒙や勉強法についての本が多く出ています。本学図書館にも『知の現場 = The fields of knowledge 』(2010年)などがあります。               (ふみし)
※『知的生産の技術』『私の知的生産の技術』『知の現場』は図書館 002.7 の棚に、『新・わたしの知的生産の技術』は図書館 002.7 の棚にあります。